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住職からのお話

第114話

『猫の誘惑』

 昔、ある森の中に獰猛(どうもう)な一匹の猫が住んでいました。
 猫は森にいる鶏(にわとり)をあらかた食べてしまい、一羽の賢い鶏だけが生き残りました。
 猫はその最後に残った鶏も何とか誘惑し、食べてやろうと思いました。

 ある日のこと、鶏が止まっている木のところへ猫がやってきました。
 猫は媚(こ)びるように鶏に話しかけました。
「貴方は何て素敵なのでしょう。どうぞ下に降りてきてください。私は貴方と一緒になりたいのです」
 鶏は猫が自分の仲間を食い殺したことを知っていました。
「猫と鶏が一緒になるものではありません」
 鶏は猫の言葉をやんわりと受け流し、猫はますます必死になりました。
「私は貴方と甘い囁(ささや)きを交わしたいだけなのです」
 鶏はこの猫は優しく言って聞くような相手ではないと考えました。
 鶏は大きく目を見開き、猫を睨み付けて言いました。
「私を誑(たぶら)かそうたってそうは行かないぞ、鶏を食い殺す猫め!」

 鶏に怒鳴り付けられた猫は目を白黒させ、その場から逃げ出し、二度と再び鶏の前に現れることはありませんでした。

真宗大谷派 唯徳寺

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